銃 と 砲 について。
帝國陸軍では 口徑 13 mm 以上の guns を 「砲」 と呼稱し それ未満のものを 「銃」 と呼んだ。
具體的には 六・五
帝國海軍が 口徑に関係なく 総て 「機 銃」 と呼んだのとは對照的である。
Colt Browning 12.7 mm。 戰前派なら 誰でも知ってゐる、そう、あの グラマン ( Grumman F-6-F ) が片翼三挺、合計六挺で バリバリやった あれです。
大きいのが Colt Browning 50 calibre、 小さいのが Remington Super Magnum 44 calibre。
口徑 13 mm 未満だから、 どちらも 「銃 彈」 である。
帝國陸軍では 筒徑 100 mm 以上の大砲は 「野戰 重砲」 と呼稱した。 重砲の内、砲身長 「三十口徑」 以上のものを 「加濃砲」 (Cannon/Kanone)、それ未満のものを 「榴彈砲」 (Howitzer/Haubitze) と呼んだ。 具體的には;
十榴 < 砲身長 三米 ≦ 十加
十五榴 < 砲身長 四米半 ≦ 十五加
(實際には 十榴・加口徑 105 mm、十五榴・加口徑 149.1 mm なので 嚴密には砲身長堺は それぞれ 3.150M、4.473M となる。)
( 注 ) 上記はあくまでも帝國陸軍でのdefinitionであり、「加濃砲」の對象語である「Cannon(英)・Kanone(獨)」は 現在ではほとんど使はれてゐない。
即ち 牽引・開脚型 155m/m 砲である M-198 ならびに M-777 は いずれも「39口徑」の長砲身であるにもかかわらず「howitzer」と呼稱されてゐる。
現代では 野戰重砲は 牽引型・自走型、砲身長に不拘らず 米語圏では「howitzer-gun」、英語圏では「gun-howiter」と総稱されてゐる。
イラク戰爭の時、米海兵隊の M198 砲撃現塲の映像で女性アナが 「155ミリ榴彈砲」 と報道してゐたのを、正しくは「十五加」 ないしは 「十五糎加濃砲」とすべきだと 違和感を感じてゐたが、155
m/m howitzer-gun の譯語であってみれば、現代語としては「155ミリ榴彈砲」の方が正しい。
野砲とは 野戰砲 (Field (Artillery) Gun) の事で、帝國陸軍は 佛蘭西式を採用して 口徑 75 mm。 これが 米・蘇の 3 吋砲 (76.2 mm) との口徑差 僅かに 1.2 mm ながら 射程と破壊力に大きく水をあけられる。 師團野砲兵聯隊の主力兵器。
佛蘭西 Schneider 社の模倣である 九○式野砲は「三十八口徑」長砲身であるが
こちらは 曲射も可能な 短砲身 75 mm Field Gun。
佛ヴェトナム・アルジェリヤ戰で活躍したもの。
巴里・廢兵院 (Invalides) にて撮影。
帝國海軍で速射砲と謂うのは Rapid Firing Gun ( Quick Firing Gun とも謂う。) の直譯で 「
左寫眞が 「四十口徑安式十五拇速射砲」 右寫眞が 「五十口徑四一式六吋砲」
安式は テニヤン島で、四一式は サイパン島で撮影。
日露戰争における戰艦、装甲巡洋艦の副砲合計 180門は すべて
北海道炭礦汽船會社 と アームストロング社 の 合辯會社である室蘭の 日本製鋼所で 尾栓形状を改良して國産化されたものが 「四一式」 であり、弩級時代に入り 漸次 「
孰れも 「安式」 と同じ型式でありながら 「速射砲」 の呼稱は廢れてしまう。
「五十口徑三年式五吋五砲」
(ロタ島ならびにグアム島で撮影)
毘式十五糎(口徑六吋)砲彈重量は 100
帝國陸軍でも野戰重砲の最大口徑を 伊多利にならって 149.1mm としたのは同じ理由だと謂はれてゐる。 八九式十五加濃の最大射程が 18,100米であったのに對し 蘇聯軍の 六吋加濃 (口徑 152.4mm) のそれは 30,000米であり ノモンハンでは完全に out-range されて 野戰重砲兵旅團があわや全滅の憂き目にあう。
六吋砲を 逆に scale-up したものが 軍艦大和級に副砲として採用された 「三年式十五・五砲」 (三聯装六十口徑 膅徑 155mm) である。
三年式十五・五砲 三聯装砲塔模型、砲身形状に 「安式」 の面影を色濃く残してゐる。
(尾道市 日立造船向島造船所内 「男たちの大和」ロケ現場にて撮影)
四十五口徑三年式四十糎砲 (口徑 16吋 ≒ 406.4mm)、砲身形状に 「安式」 の面影を色濃く残してゐる。
(呉市海事歴史科學館にて撮影)
四十五口徑九四式四十糎砲 三聯装砲塔模型、口徑 460mm。
(尾道市 日立造船向島造船所内 「男たちの大和」ロケ現場にて撮影)
計算圖表學の泰斗 谷村豊太郎海軍造兵中將の設計になる 世界最大の艦砲。
「安式」 「毘式」 の影響から抜け出した 谷村豊太郎工學博士の設計思想にもつづく 我が國初の獨自設計。
Hotchikiss Mark-1 three pound quick-firing naval gun
法國製保式三封度速射艦砲
帝國陸軍で速射砲とは Anti-Tank-Gun (ATG) (Panzerabwehrkanone PAK) の事を謂う。
ノモンハンで 九四式速射砲(口徑 37mm) が 蘇聯軍戰車に對して無力であることが判明して、支那戰線で鹵獲した獨逸製 「對戰車砲」 (Panzer abwehr Kanone) を模して 急遽 設計されたのが 「一式機動速射砲」 (口徑 47mm) である。 ラインメタル社 (Rheinmetall AG) PAK36 のコピー (almost identical) でありながら「對戰車砲」 (Panzer abwehr Kanone; PAK) と呼ばずに なぜ 「速射砲」 と呼んだのであろうか。
一式機動速射砲 (口徑 47mm)
(グアム島で撮影)
ガダルカナル戰には 一式機動速射砲が間に合わず、支那戰線で鹵獲した PAK36 で對應したと謂う。
形状は すっかり PAK36 を眞似ることは出來ても、ラインメタル社の砲彈は 貫通力の高い 特殊形状・加工が施されてゐたそうで、
一式機動速射砲 では 米軍のM4戰車には有効打を與へることが容易でなかったと謂はれる。
(2009/03/15 初掲)
(2017/09/20 改)
英語の 「 a gun 」 と謂う概念は 「銃 砲」 であって 日本語の 「鐵砲」 と 「大砲」 を區別する適切な言葉を知らない。
丁度、 日本語の 「自動車」 が 乘用車(automobile/passenger cars)、 バス(buses)、 トラック(trucks/lorries) を包括する概念であり それに相當する英語の言葉が存在しないのと對をなす。 ( しいてさがせば 「motor
vehicles」 に相當するけど、どうでしょう。 )
主要参考文献ならびに引用出典;
福井静夫著作集 日本戰艦物語 1992
黛 治夫 海軍砲戰史談 原書房 昭和四十七年
日本陸軍兵器資料集 並木書房 1999
陸軍機械化兵器 銀河出版 1995
歸山則之著 「海軍砲熕」 依代之譜 平成二十九年
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